翻訳支援ツールとは?

翻訳支援ツール(以下、翻訳ツール)は翻訳作業を助けるアプリケーションを指します。翻訳者に過去の似ている文章を提案したり、Wordの校閲機能のようにチェックしたり、翻訳時の負担を大きく減らします。

翻訳ツールを上手く使うことで翻訳の品質が大きく向上するというメリットがあります。しかし、導入費用が高く、操作も難しいので、扱える翻訳者が少ないという側面もあります。

翻訳ツールの仕組み、メリットやデメリットを中心に分かりやすく説明します。

翻訳ツールとは?

簡単に言えば、翻訳ツールは翻訳者の力を増幅させるプログラムです。プログラム単体が翻訳を勝手に生み出せないので、翻訳ツールと翻訳者が一体になって初めて意味があります。

翻訳ツールの目的

翻訳ツールは翻訳者の作業負担を減らし、翻訳の正確性と生産性を上げるために開発されたプログラムです。建築業界で使われるCADのようなもの。頭で計算しながら定規とペンで設計図は描けますが、CADを使った方が正確かつ早くできます。WebデザイナーにとってのDreamweaver、料理人にとってのフードプロセッサーのように、いずれも作業者の負担を減らし、正確性や効率性を向上させるために作られた道具です

建築業界のツールをCAD(Computer Aided Design、“キャド”)と呼びますが、翻訳業界の翻訳ツールはCAT(Computer Aided Translation、“キャト”)といいます。海外では“キャトツール”と呼びますが、日本ではやはり“翻訳ツール”の方が一般的です。

機械翻訳との違い

機械翻訳は翻訳対象原稿に翻訳メモリーの中身(データベース)を照らし合わせて、類似している文章を自動的に置き換える処理です。機械翻訳は翻訳者を必要とせず、プログラム単体が字面をデータベースと比較しながら、勝手に文章を置換します。例えるなら、ガチャのようなものです。運が良ければ欲しいものが出るかもしれません。

翻訳ツールの是非

どんな手法にも一長一短があります。翻訳ツール例外ではありません。ここでは、依頼者、翻訳会社と翻訳者のそれぞれの視点を考察しながら、翻訳ツールを使用するメリットとデメリットを詳しく見ていきます。現実味のある説明をするため、架空の翻訳を想像してください。アメリカの会社が作った300ページ、10万字ほどのソフトウェアの英語マニュアルを日本語に翻訳する必要があったとしましょう。

翻訳ツールのメリット

まずは翻訳という仕事の主役である翻訳者から見ていきます(翻訳ツールは元々翻訳者のために作られたものですから)。

翻訳者から見たメリット

翻訳者は原文(英語)の意味を理解・吟味し、同じ意味・効果を持つ訳文(日本語)を組み立ていく必要があります。この作業が翻訳の基本です。さらに、訳文の表現を統一したり、依頼者の表現の好みに合わせたり、様々な細かいルールに沿って進める必要があります。翻訳の品質を高めるために必要な努力ですが、異常な記憶力と頭の回転が求められます。これが翻訳者にとって大きな負担になります。翻訳者の多くが白髪交じりなのはそのためです。

翻訳ツールの中核を成すのは“翻訳メモリ”という機能です。翻訳ツールが文章をセンテンスごと(例えば最初の文字から“。”までの短い一文)に区切り、翻訳者がそのセンテンスに対して訳文を作っていきます。英語の一文と日本語の一文がペアとして翻訳メモリに登録されます。「一文を翻訳する」→「翻訳メモリに登録する」→「次の一文を翻訳する」→「翻訳メモリに登録する」作業が繰り返され、翻訳メモリという“箱”に翻訳のペアが蓄積されます。

ここまで面白みはないですが、ここから感動が始まります。翻訳を進めていくと突然「この原文ならこの訳文でどうでしょう?」という翻訳候補が提案されます。提案された翻訳がその文脈に適切なものであれば、翻訳候補を適用するだけでそのセンテンスの作業が完了し、次のセンテンスへ素早く進めます。つまり、翻訳者は記憶を呼び起こすという拷問から解放され、効率良くセンテンスを翻訳できます。精神的、時間的な負担を減らされた翻訳者により高品質な訳文を生み出す余裕が生まれます。マニュアルが分かりやすくなり、ユーザーによる問い合わせも減りますので、依頼者に絶大な付加価値を寄与する結果になります。

依頼者から見たメリット

翻訳者が翻訳ツールを正しく使用することでマニュアルの表現が統一され、ルールに沿った高品質な翻訳を手に入れることができます。上記のように、翻訳の品質が上がると納品後の修正やフィードバック対応が格段に減り(または完全になくなり)、マニュアル公開後、ユーザーからの指摘や不要な問い合わせも著しく減少します。つまり、翻訳ツールを使用していない場合と比べて、“事後の損失”を回避できます

そして、今回蓄積された翻訳メモリを次回のマニュアル翻訳だけではなく、大元のソフトウェア、ソフトウェアの販売パンフレット、製品のWebサイト翻訳などにも使用することで、すべてのマテリアルや資料の翻訳を統一できます

さらに、正しいマニュアル作成とメモリ運用をすることで、翻訳メモリの再利用を活用した翻訳料金のコスト削減も可能です。Frontierは翻訳メモリを活用した料金の割引に対応しています。

翻訳会社から見たメリット

翻訳ツールに対応していることを主張することで、大型案件が受注しやすくなります。

翻訳ツールのデメリット

翻訳ツールを使用することで思わぬ副作用が発生することもあります。

翻訳者から見たデメリット

実務レベルで使える翻訳ツールはかなり高価で、購入は簡単に決断できる代物ではありません。元を取るためには翻訳ツールの機能と操作をフルに覚える必要がありますが、その概念が特殊で難解な部分があります。大金の投資に失敗し、単純なWordの上書き翻訳に戻る翻訳者が多いです。日本で翻訳ツールを使用できるフリーランス翻訳者人口は3割ほどだといわれていますが、そのほとんどは基本的な「翻訳」操作しかできず、翻訳の品質に直接関わる応用的な操作とプロジェクトの詳細設定が全くできません。結果的に、翻訳のパッケージを作成する翻訳会社に言いくるめられ(そもそも知識不足で疑うことさえできず)、タダで翻訳させられるケースが多く見られます

依頼者から見たデメリット

依頼した原稿が翻訳ツールでしっかり翻訳されていると思っている依頼者が一番損します。翻訳会社に高いお金を払いながら、約束されたものと程遠い翻訳が納品されますから。翻訳ツールを完璧に使いこなせるフリーランスがほぼ存在しないことを考えると、再委託型の翻訳会社から高品質な翻訳を期待することが難しい

翻訳会社から見たデメリット

翻訳会社は仕事を獲得するために翻訳ツールが使えると主張しますが、ツールに関する知識は皆無に等しい。そもそも、翻訳会社の営業やコーディネーター、プロジェクトマネージャーはほとんどの場合日本語しかできず、実務レベルの翻訳もやったことがありません。せっかく獲得できた案件も、依頼者が期待する高品質を提供できないので、一度きりの取引で終わってしまいます。

翻訳ツールの種類 - 翻訳編

翻訳ツールは星の数ほどありますが、実務レベルで使えるものは限られています。ここではその一部の特徴について分かりやすく説明します。

翻訳業界で最も使用されているTrados

Trados(トラドス)は実務レベルで使えるものとして、最も選ばれている翻訳ツールです。Office系の原稿だけではなく、FrameMakerやInDesign、html、xmlなど、多くのファイル形式を処理できます。チェックツールとの互換性も良く、比較的に使いやすい翻訳ツールです。様々なジャンルの翻訳に採用されているのも特徴です。

高機能で自動車業界で一般的なTransit

Transit(トランジット)は知る人ぞ知る翻訳ツールです。機能がとにかく多く、その分使いこなすのもかなり難しい。そのため、日本で扱える翻訳者が少な過ぎて、“いない”と思っても構いません。でも、安心してください。FrontierはTransitも扱えます。

翻訳ツールの種類 - チェック編

翻訳ツールには「翻訳」をメインに行うものと、「チェック」に特化したものがあります。高品質な翻訳を提供するためには、それぞれのツールを組み合わせる必要があります。Frontierがメインに使用するXbenchをメインに説明します。

プロ御用達しのXbench

XbenchはスペインのApsic社が開発した高機能なチェックツールです。スペル・文法ミスの基本的なチェックから、訳文の数値が原文の数値と合致しているかどうか(金額を一桁間違って訳した場合を想像してみてください)、統一すべき文章が統一されているかどうか、与えられた用語集に基づいて翻訳されているかどうかなど、普通のテキストエディターでは到底できないようなチェックができます。

もちろん、このようなチェック内容は他の翻訳チェックツールでもできますが、最大の特徴はその拡張性です。通常のチェックツールは上記のように予めプリセットされたチェック内容しかできません。しかし、実務レベルの翻訳になるとそれぞれの原稿に特有の“癖”や特徴があり、パターンを分析してその特徴に合わせたチェックをしなければ品質が上がりません。この点で、Xbenchには自由にカスタマイズできるチェックリスト機能があり、翻訳者が原稿の癖を見極めながら本当に必要なチェック項目を構築できます

さらに、Xbenchは強力な正規表現をサポートしています。正規表現は簡単に言えば、文章を数値化して計算できるようにする手法です。プログラミングの世界で書いたもののチェックとして良く使われるものですが、翻訳の世界で使うと計り知れない効果をもたらします。中身はややこしく、文系の翻訳者には拷問でしかない代物ですが、ご安心ください。理系的な頭を持っているFrontierの翻訳者は翻訳業界でも随一の正規表現知識を持っています。

まとめ

翻訳ツールは翻訳の作業効率と品質を上げる目的で、翻訳者のために開発された補助プログラムです。導入費用が高く、習得も比較的に難しいので、理想通り(実務レベル)に使いこなせる翻訳者は全体の1割以下という現実があります。しかし、翻訳ツールを正しく運用できれば、本来の目的(効率と品質の向上)だけではなく、翻訳メモリの活用で依頼者のコスト削減にも貢献できます。

翻訳、翻訳会社と翻訳業界の仕組みをもっと知る

Frontierは翻訳会社や翻訳業界の“なぜ?!”を、独自の視点から考察しています。翻訳会社の選び方や品質が上がらない理由も分かりやすく解説します。

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