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翻訳者になるにはどうすればいい?
必要なスキル、心得や給料について現場のプロが教えます

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翻訳者になるにはどうすればいい?
  • この記事が答える疑問:

    1. 翻訳は何をする仕事?

    2. 翻訳者になるためには何を覚えなければならないのか?

    3. 翻訳は将来性があるのか?給料はどのぐらいもらえるのか?

  • 記事のターゲット:

    翻訳の仕事に興味がある人、翻訳者になるためにはどうすればいいか分からない人

1. 翻訳はどういう仕事?

翻訳は文章を一つの言語から別の言語に変換する仕事です。例えば、英語の文章を日本語にしたり、日本語の文章をスペイン語に変えたりすることです。

翻訳の守備範囲が広く、あらゆるものが翻訳の対象になります。例えば、日本のメーカーが海外に製品を輸出するとき、その製品のマニュアル(取り扱い説明書)を英語に翻訳する必要があります。製品の認知度を広めるため日本語のWebサイトも英語に翻訳したり、販売促進のためカタログやパンフレットも翻訳したりします。

海外の映画に出てくる字幕も同じです。外国語から日本語に翻訳されています。海外の企業と取引するときも、プレゼン資料や契約書等のビジネス文書の翻訳が発生します。海外に行ったり、移住したりする場合は銀行口座の明細、住民票や各種の公的文書も翻訳しなければなりません。海外の観光客を迎え入れる場合はホテルの宿泊約款や飲食店のメニュー等のインバウンド関連翻訳もあります。目立たないから“黒子”のような存在ですが、翻訳は様々な業界と場面に求められます。

小説などの翻訳(文芸翻訳と言われるもの)ももちろんありますが、ここでは産業翻訳(ビジネス翻訳)を念頭に説明していきます。

翻訳と通訳の違い

翻訳と通訳は良く混同されますが、違いは“文章”の有無です。翻訳の流れは文章から文章へです。音声を翻訳することになっても、その音声をまず文章に落とします(“文字起こし”という作業です)。そのあと翻訳者が翻訳し、文章として出します。

通訳は、通訳者がその場で聞いたことを頭の中で別の言語に変換して、話して伝えていきます。一見同じことに見えますが、必要な能力やスキルが全く異なりますので、片方できれば両方できるわけではありません。

2. 翻訳者を目指す人の心得

翻訳者として成功するためには3つの大事ことを常に意識する必要があります。

翻訳には必ず目的がある

翻訳には必ず目的があります。例えば、高級化粧品を作っているメーカーがイギリスで商品を展開するため、Webサイトを英語に翻訳したい場合を考えましょう。ゴールは日本語のWebサイトを英語にすることではありません。イギリスで商品を展開して、売り上げを伸ばすことが目的です。

Point

翻訳には必ず目的があります。額に入れて壁に飾っておくために依頼する人はいない(と思う)。

翻訳者の仕事は依頼者の目的を実現させること

依頼者の“売り上げを伸ばす”という目的を実現するためには、いくつかの条件を満たす必要があります。まずは正しい翻訳です。上記の例で考えると、誤訳があったら消費者に誤ったメッセージを送ったり、ブランドイメージを大きく傷つける可能性があります。

次はいい文章です。原文の理解が一流でも、訳文が分かりにくかったり、読む人を混乱させるだけの文章になったら意味がありません。翻訳で外国語だけが重要視されてしまいがちですが、文章力も同じぐらい重要です。

最後はマーケティング的な要素です。言語を正確に理解して、理路整然な訳文を書いても、無味無臭のつまらない文章では商品がホコリを被るだけでしょう。ターゲットが好む表現・言葉遣いで“響く訳文”を作ってはじめて良さが伝わり、化粧品の購入につながります。

Point

依頼者は中途半端な仕事のために高い翻訳料金を払っていません。

翻訳はトライアスロン、翻訳者はアイアンマン

翻訳には必ず目的があり、その目的を実現するため様々なスキルを駆使する必要があります。上記の例でもそうですが、英語だけで翻訳の目的は実現できません。

翻訳はトライアスロンのようなものです。足が速くても、泳ぎが下手なら勝てません。世界最速のスイマーであっても、自転車に補助輪が付いているようでは参加する意味がありません。スイミング、サイクリング、マラソンの3つができて、初めてスタートラインに立てます。

翻訳も言語だけではなく、ライティングやマーケティングなど、複数のスキルを組み合わせて初めてできる仕事です。さらに、ビジネスの世界では納期と品質に対するニーズが日々厳しくなります。翻訳者は常にスキルを磨き、時代に合わせて新しいスキルを獲得していく必要があります。その絶え間ない努力は他の仕事から見てバカバカしく映るかもしれませんが、生涯続く鍛錬の日々はアイアンマンレースそのものです。

Point

翻訳者には外国語だけではなく、ライティング、マーケティングやITの知識など、複数のスキルが求められます。

3. 翻訳者になるためには何が必要?

ここまで読むと、カップラーメン作ったぐらいで料理人ではないことが分かりました。では、翻訳者になるためには具体的に何を、そしてどのぐらい必要か?

私たちFrontierは翻訳者が結成して作った翻訳会社ですが、以前はメーカーの社内翻訳者でした。自分たちだけで間に合わないときは翻訳会社に依頼していました。そのため、翻訳者、翻訳会社、そして一番重要な“依頼者”のそれぞれの立場(それぞれの理想と葛藤、利害関係)を知っています。

依頼者として私たちが求めていた品質基準を翻訳会社として提供し始めたところ、他の依頼者も同じニーズを持っていることが分かりました。その経験から、翻訳者は3つの能力を組み合わせて、一定レベル以上高めることで、依頼者の最も厳しいニーズにも応えられることが分かりました。依頼者の目的を実現することが私たち翻訳者の仕事なので、翻訳者を志す人はその能力の組み合わせ(以下、“Frontier基準”)を取得する必要があると考えます。

翻訳者に求められる3つの要素

翻訳者になるには何が必要?- 言語能力編

翻訳の中心的なスキルであり、取得に最も時間が掛かるのは外国語です。大抵の人は外国語を覚えてから翻訳者を目指そうとします。今から外国語の勉強をスタートして翻訳者を目指すことはもちろん可能ですが、並々ならぬ意志と覚悟が必要です。言語能力が実務レベルになるまで5~10年は掛かります(人によってかなり差があります)。

ネイティブ(現地の人)並みの言語能力

少々大げさな見出しに見えますが、本当です。中途半端な外国語では翻訳できません。いちいち辞書を引かなければ意味が分からないようでは仕事になりません。想像してみてください。あなたが手術を受けるときに、医者が冷や汗をかきながら医学書をいちいち調べていたらどう思いますか?依頼者はプロのサービスを受けるために大金をつぎ込んでいます。留学程度の素人がごまかして作った訳文を手に入れるためではありません。

では、“ネイティブ並みの言語能力”はどの程度の能力を指すのか?海外の人と下ネタで話が盛り上がるほどの実力です。よりによってなぜ下ネタかっというと、理由は2つです。まず、下ネタを覚えているということは、その言語の幅広い知識を既に持っているはずです(中途半端な状態で下ネタに手を出しているなら、勉強の方向性が間違っているというか、もはや掛ける言葉が見つからない)。二つ目は下ネタの特殊性です。盛り上げるためには相手の世界観と雰囲気を読み取り、下ネタの程度(“重さ”と言った方がいいのか)を正確に理解しながら、同じ程度の内容を返す必要があります(間違って“軽い”ものを返すと話が白けて、“重い”内容を返すとドン引きされて会話が終わります)。

大人が外国語を覚える場合、学校の教科書(現実世界でほとんど使わない英語のフレーズ集)や当たり障りのないビジネスシーンの会話が中心になります。単調で平べったい会話です。しかし、ビジネスの世界は複雑です。翻訳原稿はほとんどの場合、間接的な表現や“伏線”だらけの文章です。その“見えない意図”を正確につかむためには、文脈だけではなく、文化背景、その国の常識や現地人の感覚を理解する必要があります。

翻訳で誤訳は論外。正しい翻訳を出すためには、原文を正しく理解することが必要不可欠です。原文を正しく理解することはその意味だけではなく、その程度、その意図も正確に見極めることです。見極める能力は学校の教科書やビジネスシーン会話集では取得できません。その国に住んではじめて現地の人の感覚が分かります。その感覚が身に付いたら、あなたの言語能力がかなり高いレベルまで来ていると言えます。

優れた文章力

ビジネスでメールは当たり前になりましたが、文章がものすごく分かりにくいメールをたまに見かけることがあります。上司、部下、同僚を問わず、文章が下手な人は下手です。自分の頭の中では言いたいことが理路整然で明確ですが、文章にした途端、不要な情報を入れたり、必要な情報を省いたり、順序をめちゃくちゃにした文字のサラダにする人は意外と多いです。

翻訳では原文を過不足なく理解することが重要ですが、同じように重要なのはその意味を過不足なく文章にすることです。原文の意味などを完璧に捉えても、読み手が同じように理解できる形にしなければ意味がありません。もちろん、原文が酷い場合は酷い訳文を出すのも翻訳です。その良し悪しを正確に表現するためにも、優れた文章力が必要不可欠です。

Point

翻訳はインプットとアウトプットです。外国語理解だけではなく、母国語の文章力も必要です。

翻訳者になるには何が必要?- 分野の知識編

外国語が分かっても、何でも翻訳できるわけではありません。日本語で書かれても、医学や法律のことになると普通の人は意味が分かりません。意味の理解は翻訳の大前提です。意味が分からないものは当然翻訳できません。

「分野の知識」って聞くと大学やNASAレベルを連想して難しく考え始める人が多いですが、ほとんどの場合はそこまで求められません。例えば、卓球の雑誌を翻訳するとき、卓球の博士号を持っている翻訳者に頼む必要あるだろうか?もちろん、卓球のことを“ピンポン”と呼んでいる素人には当然無理ですが、趣味で定期的にやっている卓球ファンなら正確で面白い翻訳に仕上げます。

専門知識を身に付ける方法は様々です。大学で勉強できるものがあれば(医学や法律など)、仕事でしか覚えられないもの(伝統工芸や職人の世界など)もあります。さらに、大学や仕事のどちらでもなく、独学や趣味の延長線上でしか獲得できない知識もあります(フィッシングやハッキングなど)。

Point

翻訳するためには、文章の中身も完璧に理解する必要があります。知らない分野には手を出さない。

翻訳者になるには何が必要?- ITリテラシー編

紙とペンだけで翻訳できる時代が終わりました。依頼者が求める納期と品質に応えるためパソコンは必須です。しかし、パソコンでWordを開いて翻訳を書いていけばいいかというと、そうではない。テキストエディターだけでは紙とペンの時代と何も変わりません。そのさらに上をいく速さと正確さが求められる時代です。

翻訳支援ツールを自由自在に扱う知識

依頼者はいつも急いでいます。納期もいつも短いです。人間は時間に追われたり、焦ったりするとミスが目立ちます。翻訳者も同じです。高品質な翻訳をデッドラインに間に合わせるためには、仕事の効率性を高めて時間を味方にする必要があります。翻訳の効率性を高めるのはCAT(Computer Aided Translation)ツール、または翻訳支援ツールと呼ばれるものです。

翻訳支援ツールはショベルカーのようなものです。建築現場の穴をスプーンで掘ろうと思えばできますが、時間掛かるし、折れたスプーンの破片が残ったりするし、穴もキレイにできないから今どきはショベルカーを使います。翻訳もWordでやろうと思えばできますが、納期と品質を考えると翻訳支援ツールは必須です。

基本概念を覚えれば使い方は簡単ですが、パソコンに疎い人の場合は大変かもしれません。そのため基本的なITリテラシーは必要です。

情報セキュリティーの知識

翻訳内容は様々ですが、未発表製品のマニュアルや契約書など、企業秘密や個人情報が詰まっているファイルは珍しくありません。何らかの形でデータが盗まれたり、情報が漏れたりしたら謝って済む話ではありません。

翻訳者は多くの機密情報を扱うため、細心の注意を払う必要があります。大事なデータを守るため、インターネット、ネットワークやデータ侵害等、情報セキュリティーに関する最低限の知識と防衛技術が求められます。

Point

翻訳の品質、納期と依頼者の情報を守るため、翻訳者には高いITリテラシーが求められます。

4. 翻訳者になるための資格、翻訳者の給料と仕事の将来性

翻訳者になるための資格や翻訳者の“お金事情”は翻訳者を目指す人が最も気になる話です。それもそのはず、これだけ努力を重ねて、報酬が雀の涙みたいなものなら最初からやらない方がいいです。気になって当然です。

翻訳者になるための資格

翻訳者になるための資格は存在しません。理由はいろいろありますが、翻訳で客観的な評価はほぼできず、合否の線引きが難しいです。また、もし翻訳の資格があれば、依頼者が期待するのは当然品質担保です。しかし、「オタクの資格を持っている翻訳者が出した翻訳は使えない!弁償しろ!」と言われるたびに損害賠償を出す必要があれば、資格を出した団体は一日で蒸発します。翻訳業界に資格が存在しないのはそのためです。たまに見かける試験等は資格ビジネス(受験者からお金を巻き上げるビジネス)であり、品質を担保しない以上、実務では意味がありません。

翻訳者の給料

翻訳者の給料は努力に比例していると言えます。Frontier基準に合致しているプロ翻訳者は能力が高いので、翻訳会社を経由することなく依頼者と直接取引します。働く日数や時間数にもよりますが、月の報酬が50~100万円の間で推移します。

一方で、乏しい外国語だけを武器としている“自称翻訳者”の場合、取引相手は翻訳会社やクラウド翻訳の単発翻訳です。1,000字翻訳して100円の報酬をもらいます。品質を保ちながら1日に翻訳できる文字数は2,000字と言われますので、200円/日×22日で4,400円ほどの月収になります。

Point

給料は翻訳者の努力に比例します。

翻訳の将来性

翻訳者はAI翻訳に仕事を奪われると言われますが、その通りです。ただし、この主張に注意点があります。仕事が奪われるのは“自称翻訳者”の方です。必要なスキルを持っていない、または十分に高めていない人が作る翻訳は品質が低く、そもそも翻訳と呼べません(返金騒ぎレベル)。「AIがいい翻訳を出す」と言われるのは、自称翻訳者が作った低品質な翻訳と比較しているからです。

翻訳は原文の意味を理解して、理解できる形で訳文を作る作業です。しかし、AI翻訳はAI翻訳です。コンピューターは文章の意味を理解しているわけではなく、翻訳者が過去に作ったメモリーなどを元に、原稿に似ている訳文を吐き出しているだけです。AIが本当の意味で翻訳できるのは、コンピューターが自然言語(私たちが話す言語)を理解できたときです。そうなったらプロ翻訳者でも仕事を奪われますが、その時はもはや仕事の心配をしている場合ではなさそうです。

5. Frontierからのアドバイス

翻訳は決して楽な仕事ではありません。でも、それでも翻訳者になりたいなら、トップを目指すつもりで取り組んでください。外国語を限界まで磨き、専門知識を身に付けて、ITリテラシーを高めてください。涙なくして語れない努力ですが、そこから生まれた実力は必ず成功につながります。途中で道に迷ったらメッセージを送ってください。何気ない会話が道標になります。