オーバーツーリズム対策は発生させないことから始まる

“対処”するのではなく、“未然に防ぐ”対策を

押し寄せるインバウンドを分散すれば、日本に落ちるお金が増えるのか?

観光立国の目的は外貨獲得です。お金を使わず、写真だけ撮って帰る人を呼ぶことではないはず。
観光の本質を捉えながら、オーバーツーリズムの原因と問題を未然に防ぐ方法を紹介します。

目次

オーバーツーリズムとは

オーバーツーリズムは観光地の処理能力を超えて、大量の観光客が押し寄せる現象です。オーバーツーリズムによって実際に発生する問題は地域や環境によって異なります。

例えば、ヴェネツィアでは水上交通の混雑、バルセロナでは住宅価格の高騰、バリ島では水不足と土地開発による環境破壊が発生しています。

日本が直面しているオーバーツーリズム問題

日本で良く見られるのは交通のキャパシティオーバー、地域住民との問題、自然環境と文化遺産の損傷などです。

インフラの過負荷(交通渋滞、ごみの増加)

京都で通勤・通学の足である路線バスに地域住民が乗れないという問題は頻繁に取り上げられていますが、バスだけではない。鎌倉の江ノ電でも観光客が殺到し、駅にも近づけない事態が起きています。

食べ歩きメニューを提供する市場や飲食店が集中するスポットでは、ごみ箱からごみが溢れているニュースも目にします。

地元住民との摩擦(騒音、マナー違反、文化の尊重欠如)

写真を通るため民家の敷地内に勝手に入ったり、夜遅くまで奇声を上げ騒いだりする問題も良く取り上げられます。

環境破壊(自然や遺産の損傷)

世界自然遺産に登録された屋久島では、植物が踏み荒らされ、登山者がそこかしこにトイレを済ますことで自然環境が破壊されています。神社では落書きなどの被害も発生します。

それでも日本はなぜ観光立国を目指すのか?

観光業に力を入れる理由:雇用創出力が高い、外貨を直接稼ぐ、経済波及効果が広い、地方再生につながる、国のブランド力向上、即効性がある。

デメリットよりも、メリットの方が圧倒的に多いからです。では、観光業に力を入れることで、国にどんなメリットがあるのか?

観光業には雇用を生み出す力が圧倒的に高い

観光業は労働集約型産業(人間の労働力に依存する割合が高い産業)です。ホテルなどの宿泊関連、電車やバスなどの交通関連、アクティビティやガイド、飲食、小売などに多くの人手が必要です。

機械化が進んでいない地方や発展途上国でも、観光業は比較的に早く、そして多くの雇用を生み出せます。観光業の力と規模が大きく、世界の10人に1人が観光産業で働いています(WTTC統計)。

観光業は「人を動かす産業」です。人のための産業という意味でも社会的意義が大きい。

外貨を直接稼げる産業

国内でものを作って売っても、お金が国内を循環するだけで増えません。稼ぐためには、海外のお金を国内に入れる必要があります。通常の製造→輸出→稼ぐ流れと違って、観光業では観光客が来て国内でお金を落としてくれます。航空券、宿泊代、食事代、買い物などすべてが外貨獲得になります。

特に資源の乏しい国(日本がその最たる例)では、観光業は“見えない輸出”として重宝されます。

どのぐらいすごいかというと、2023年の日本の観光収入は5兆円超えです。日本が車社会になったと言われるようになった1970~1980年頃の自動車産業も5兆円規模でした。

波及効果(経済の裾野)が広い

観光客が来ることで、おみやげなどの小売、レストランなどの飲食関連、移動に欠かせない交通関連、大きな割合を占める宿泊、訪日の動機になる文化施設、レストランを支える地元農業など、そのメリットが広範囲に広がっていきます。

一人の観光客が消費するお金があらゆる産業に循環するため、「観光は地元経済の総合エンジン」とも言われます。特に一次産業(農業、林業、漁業など)や伝統工芸との相性がいいです。

地方再生の切り札になりやすい

日本は東京の一極集中が進み、地方の人口減・産業空洞化が深刻化しています。しかし、観光なら自然、文化や人そのものが資源になります。つまり、工場誘致などの投資を呼び込まなくても、地方にあるものを磨くだけで観光資源になります。

国のブランド力を高めるソフトパワー

日本を訪れた外国人が、文化、料理、人々のホスピタリティなどを体験すると、観光だけでなく輸出や留学、投資にも波及します。観光で国のイメージが上がる(ソフトパワーが向上する)と、日本のブランディング力も上がるため、国のビジネス力もアップします。

比較的すぐに成果が出やすい(即効性)

工場建設などと違い、既存資源を活かすだけで短期的な成果が出やすいのも観光業の強みです。コロナ後も、観光は最も早く回復した産業のひとつです。

このように、観光業は単なる「余暇ビジネス」ではなく、「国の未来を支える基幹産業」になり得る力を持っています。だからこそ、多くの国が競争のように観光に投資し、戦略を立てています。

これだけのメリットがあれば、資源が乏しく、地方再生を重要課題としている日本は間違いなく観光業に力を入れるべきです。政府が観光立国を推進しているのはそのためです。

観光立国にはメリットが多いのに、なぜその効果が現れていないのか?

小麦粉と水まぜればパンできるわけじゃない。深く考えず観光に力を入れたのが問題だが、具体的に何がいけなかったのか?

事前の仕組み作りを怠った

2021年、コロナが蔓延して世界がまだ止まっていたころ。コロナが落ち着いたら日本に観光客が押し寄せることが社会背景やデータから予想されていました。備える時間があったにも関わらず、予約制や現地入り制限などの対策を行わなかったこと今のオーバーツーリズム問題につながっています。

手当たり次第な宣伝を打ってしまった

コロナが終息して、誰もが外貨獲得に腐心していたころ。特定の国、特定のソーシャルクラス、特定の客層などに絞ることなく、「誰でもいいからとにかく来て」という安易な宣伝を無差別乱射してしまった。結果はこれです。民家や拝観休止日の寺にまで不法侵入する人まで呼び寄せた。

自らチープな観光を推進した

世界中で問題になっている“チープな観光”。LCCで渡航して、路線バスで現地を安く移動し、“インターネットポイント”を稼ぐために写真を撮って帰る観光です。行先にお金を落とさないだけならまだマシだが、不法侵入や無許可撮影、地域住民の足を奪うなどの問題を起こしているのは、ほとんどこの人たちです。

皮肉にも、このチープな観光を推し進めたのは日本です。お金をほとんど掛けず“映え写真”だけで宣伝したら、お金をほとんど掛けず、同じ写真を自分のコレクションに追加したい人たちが来ます。冷静に考えると、意外とフェアなディールです。

客単価が低く、手段が目的になった

観光客をいっぱい呼べば外貨もいっぱい稼げますが、それは客単価が高ければの話です。ビジネスで一番重要な“客単価”を忘れ、“数”を呼ぶことに力を入れてしまった。“会議のための会議”というヤツです。

日本政府は、「2030年に訪日外国人旅行者数6,000万人、消費額15兆円を達成する」という目標を掲げています。2024年は3,600万人、消費額8兆円を推移しています。あと6年で人と金額を倍にできれば、目標を達成できそうだ。

因みに、アメリカの2023年の観光客数は6,650万人で消費額は2,131億ドル(為替レート150円計算で32兆円ぐらい)です。人の数は日本の30年目標とほぼ同じなのに、金額が2倍です。日本の客単価がいかに低いか分かります。

オーバーツーリズム問題の解決は観光立国の本質にある

オーバーツーリズムの解決法:客単価の引き上げ、量より質へ、日本の価値を高める。

観光から十分な利益があれば、バスの本数はいくらでも増やせます。ゴミ箱の数どころか、回収の回数だって増やせます。オーバーツーリズム問題が発生しているのは、その前の段階である外貨獲得が上手くできていないためです。つまり、問題を解決するためには、観光立国の本来の目的である「お金を稼ぐ」ことを意識する必要があります。

問題の解決は客単価の引き上げから始まる

あなたはビジネスをやっているとしましょう。1日に100万円の売り上げが必要です。どの戦略を取りますか?1,000円の客1,000人を死に物狂いで“裁く”のか?それとも余裕をもって、100万円の客1人をちゃんと接客するのか?

客単価の引き上げはオーバーツーリズム問題を考える上でとっても重要です。なぜなら:

  • そもそも、観光は外貨を獲得するためにやっています。
  • 客単価の引き上げは日本の観光業界が抱える最重要課題です。
  • 客単価を引き上げると、観光立国のメリットが現れ始める(誰かが中抜きしなければ)。
  • 客単価の引き上げはある種の“フィルター”として機能し、日本がかかえるオーバーツーリズム問題の根本的な解決になる:来る人の数が減り、来る人の質が上がる。

量より質で満足度を上げる

「淡々と裁かれた」1,000人の客よりも、「心がこもった接客」を感じた1人の客の方がまた戻ってくれます。量より質を選ぶことで客の満足度が上がります。満足度の高い客はまた日本に戻ってくれたり、体験した店やサービスなどを友人などに紹介してくれたりします。

「安いから日本に行く」のではなく、「価値があるから日本に行く」へ

安いから日本に来た人たちは為替が少々円高に振れただけで日本に来なくなります。「安いから行ってやっている」だけで、少し高くなったら行く価値など感じないから。価値のないところは価格競争に明け暮れ、共倒れするのがオチです。

客単価を引き上げるためには商品やサービスを磨いて、付加価値を上げる必要があります。付加価値の高いものは高くても欲しいものです。付加価値を常に高めていけば、外国観光客が必ずリピートしてくれます。観光立国はまさにその“好循環”を目指しています。

観光関連ビジネスが今すぐ取り組める3つオーバーツーリズム対策

オーバーツーリズム問題を解決しながら、日本が真の観光立国に変わっていくためにも、宿泊、飲食、小売りなどの観光関連ビジネスが今すぐに取り組むべき対策を紹介します:

ビジネスの付加価値を高める

観光立国が目指す好循環:付加価値向上、客単価向上、国の価値向上

「客単価を上げたければ付加価値を高めろ」という話、耳にタコができるぐらい聞いていると思います。理屈は分かるけど、“付加価値”という物の正体がピンと来ない。ここはみんながぶち当たって進めない壁です。

ニセコの例を考えましょう。なぜインバウンドが集まりはじめたスキーリゾートに外資系が豪華なホテルなどを作り始めたのか?答えは簡単です。インバウンドのニーズを満たす宿泊施設がなかったからです。「でも、日本のおもてなしが感じられる旅館はいっぱいあったよ」と、マスコミに洗脳された人が反論するでしょう。残念ながら、ニセコのインバウンドはそんな“おもてなし”など求めていない。そこに価値など感じないから。

価値を感じるところにお金が落ちる。つまり、ビジネスに価値を付け加えるためには、客が価値を感じる商品やサービスを作る必要があります。ビジネスの付加価値を高めるためには、誰を客にしたいのか決めて、その客が価値を感じるものを突き止めることが重要です。

マネタイズを覚える

いいものをタダであげたり、またはタダ同然で売ったりしていませんか?
これは日本のビジネスが抱える大きな問題で、客単価がなかなか上がらない原因の一つです。値段の付け方は確かに難しいですが、コツを教えます。必要なものは二つ:

1-「いいものは高く、悪いものは安く」という考え方。
2- 売っている商品・サービスの内容・価格を海外と比べる(海外調査する)こと。

この狭い井戸を出て、自分のビジネスをだだっ広い海外と一生懸命比較して、お金に換えられるものをしっかり売り上げに反映していく方法(マネタイズ)を覚えることが必要です。

ターゲットの特性を理解して、客層に合ったマーケティング(宣伝)を行う

ビジネスの付加価値を上げて、マネタイズを覚えたら、あとは観光客を呼ぶだけです。簡単なようで意外と難しいです。

釣りに行ったことある人ならば分かりますが、釣りたい魚に合わせてエサを変える必要があります。マグロを釣りたいときは生きたサバを仕掛けて、イワシを釣るときはサビキという小さなキラキラ疑似餌を使います。サビキではマグロ釣れないし、イワシがいるところに生きたサバを放り投げたらイワシが全滅するだろう。

マーケティングも同じです。呼びたい客に合わせて、マーケティング手法を変える必要があります。Webサイト、海外の旅行会社、Facebook、Instagram、印刷パンフレットなど、自分の商品やサービスを宣伝する方法は無数にあります。しかし、それぞれの方法には来る客が決まっています。やり方を間違えると大事な資源だけが“撮られて”しまいます。

付加価値向上、マネタイズ、マーケティングのいずれも知識とデータが必要なため、いきなり一人でやるのはなかなか難しいです。ビジネスを成長させながらやり方を覚えたい方はぜひご連絡ください。一緒に取り組みながらマーケティングのノウハウが覚えられます。

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