オーバーツーリズムはなぜ起こる?その原因は?2つの事実から問題の本質を読み解く
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日本が抱えるオーバーツーリズムの表面的な問題は主に路線バスの混雑問題、ゴミ問題と地域住民との軋轢問題です。しかし、その根本的な原因は“お金を落とさない観光客”を呼んでしまったことです。SNS用の写真だけ撮って帰るチープな観光は地域経済に恩恵がないため、自治体はバスの増便どころか、ゴミ箱の設置・回収するお金も稼げません。
目次
オーバーツーリズムとは
オーバーツーリズムの定義
オーバーツーリズムは簡単にいうと、「観光地に人が集まり過ぎる」ことです。オーバーツーリズムという単語自体は1980年代から使われている記録が残っていますが、2016年頃、アメリカの観光業界専門メディア「Skift」がレポート(オーバーツーリズムがもたらす危険性を探る)で用いたことで、観光業界関係者の注目が集まって一気に広まりました。
オーバーツーリズムは“問題”というより、人が集まり過ぎた状態を指す
オーバーツーリズムは観光地に人がいっぱい集まることを意味しますが、人が集まっただけでは問題が起きません。日本は昔から“三大祭り”や有名な遊園地に、1日に50万単位の人が殺到していましたが、「オーバーツーリズムだ!」とテレビやニュースで騒ぐことはありませんでした。世界の有名な祭りやイベントでも同じです。つまり、オーバーツーリズムが発生した(観光地に人が集まり過ぎた)だけでは問題になりません。
それでは、オーバーツーリズムの何が悪いのか?問題の特性、具体的な内容と日本が直面するオーバーツーリズム問題の“根本的な原因”を説明していきます。
視点によって中身が変わるオーバーツーリズム問題と原因

オーバーツーリズム問題は「人が集まり過ぎた状態」+「アルファ」が加わった時に問題として発生します。オーバーツーリズム問題は多種多様で、発生する国、状況、そして見る人の視点によって変わります。
受け入れ側から見たオーバーツーリズムの問題と原因
観光協会、飲食店、宿泊施設、アクティビティ関連施設、地域の警察や消防などの公共サービスが観光地の受け入れ側です。観光客の人数が予想の範囲内であれば、ガイドや席数、ベッド数、隊員数でこと足りますが、観光客が急激に増えた場合、物や人などのリソースが足りなくなります。受け入れ側から見るとオーバーツーリズム問題はこのような形で現れます。
この場合、受け入れ側のキャパシティー不足がオーバーツーリズムの原因です。せっかく人がいっぱい来ているのに、上手く収益に変換できないのはもったいないです。必要な投資を行って、リソースの拡充を図ることが最善の対策です。
地域住民から見たオーバーツーリズム問題
観光地に大量の観光客がやってきただけでは、住民にとっては何ら問題ありません。町の税収が上がるため、むしろありがたい存在です。問題は自分の家に勝手に入ってきたり、夜中に奇声を上げて騒がれたり、通勤や通学の足を奪われたした時に起きます。
この場合、オーバーツーリズムの原因問題は文化の違いによる“小さなすれ違い”から、水資源の奪い合いという致命的な問題まで、発生する場所や国によって多岐に渡ります。
国から見たオーバーツーリズム問題
観光業は国にとって魅力的な“ドル箱”であり、国をPRする絶好のチャンスです。さらに、観光業は大量の雇用を生み、波及効果も広いため、地域経済の起爆剤として期待されています。
しかし、外資系による開発が過度に進むと、必要なモノと人が本国から送り込まれ、地域経済の循環が全く生まれません。それどころか、資源まで奪われる結果になります。
海外のオーバーツーリズム問題の具体例

バリ島のオーバーツーリズム問題と原因
世界屈指のリゾート地、バリ島では水不足と環境破壊に直面しています。
島の65%の水が観光客・観光業に使われています。400ある川の半数が干上がっているため、専門家はあと数年で島の水資源がなくなることを予想しています。
原因は外資系企業の行き過ぎた開発です。環境への負担が大きく、水資源の枯渇が目立ちますが、「地域への還元が少ない」という外資系ならではの問題もあります。
ヴェネツィアのオーバーツーリズム問題と原因
水の都ヴェネツィアは、年間2,000万人の観光客が押し寄せる都市です。その大半は宿泊せず、数時間で町の観光名所を回ってその日の内に帰る“ヒット・アンド・ラン”観光客です。街中は大混雑し、地域住民の生活環境が悪化しました。
バルセロナのオーバーツーリズム問題と原因
観光客が街中に捨てるゴミや深夜におよぶ騒音問題もありますが、最も注目すべきは住宅価格の高騰です。
バルセロナのオーバーツーリズムの原因は、殺到する観光客で一儲けしようとした不動産の持ち主が、家やアパートなどをAirbnbとして提供し始めたことです。土地と家賃の値段が異常なぐらい上がったため、現地住民が住む場所を追われてしまった。
日本のオーバーツーリズム問題の具体例

ゴミ問題
おいしい食べ物が日本の強みの一つです。普通のホテルにキッチンがないため、食材を買って料理を作ることはできません。それでは儲かるのはレストランだけで、食材を売る店はインバウンドの恩恵を全く受け取れません。歩きながら食べられるメニューはそのニーズから誕生しました。
食べ歩きメニューを提供する市場や飲食店が集中するスポットでは、ごみ箱からゴミが溢れている光景もよく見かけます。これがオーバーツーリズムによるゴミ問題です。
路線バス問題
京都では観光客が路線バスに集中し、地域住民が通勤・通学の足を奪われる問題が起きています。原因は観光客の増加で市バスがすぐ満員になることです。
無許可撮影と住居侵入問題
キレイな景色、自分の国にないもの、珍しいものなどの写真は旅の思い出になりますね。首からカメラをぶら下げて集団で海外旅行を楽しんだバーブル世代も多いでしょう。旅の思い出にするだけなら微笑ましい光景ですが、今の時代は話がちょっと違う。
富士山とコンビニの写真を撮るために道路のど真ん中に陣取ったり、いいアングルで撮るために民家の敷地内に入ったり、挙句の果てに、休山日(休みの日)の寺の塀を飛び越えてでも写真を撮ろうとする観光客(建造物侵入容疑で逮捕)も後を絶ちません。法を犯してまで撮る写真は「旅の思い出」のためだろうか?
「なぜ」でオーバーツーリズム問題の原因を探る
日本のオーバーツーリズム問題の具体例を見たとき、無意識にいくつかの「なぜ」が頭に浮かび上がったと思います。「なぜ」で問題を追及することで、オーバーツーリズム問題の原因を知ることができます。
ゴミ問題の「なぜ」
ゴミが街のあっちこっちに捨てられていたら、悪意または無知によるものと推測できます。しかし、捨てられたゴミはごみ箱に集中しています。そこで:
・ゴミの量が増えたなら、回収の回数も増やせば解決できるのではないか?なぜそれぐらいできないのか?
路線バス問題の「なぜ」
・市バスがすぐ満員になるなら、バスを増やせば解決できるのでは?なぜ市バスを増やせないのか?そもそも、観光客はなぜタクシーなどを利用せず、複雑で遅い路線バスに殺到するのか?
住居侵入問題の「なぜ」
・事前許可を取ることなく撮影したり、立ち入り禁止のところに入ったりして写真を撮ろうとするのはなぜだろう?
1つ目の事実 - オーバーツーリズム問題の根底にあるのは“お金”

写真・動画ビジネス
写真を旅の思い出として撮っているなら微笑ましい光景ですが、その写真を金儲けのために撮っているなら、話が変わってきます。
スマホカメラの高性能化とSNSの普及が相まって、旅先で写真を撮る人の数が圧倒的に増えました。写真を自分と家族で楽しむために撮る人は一定数いますが、今の時代はSNSで「いいね!」をもらって“人気者”になるために撮る人が大多数です。
“人気者”になるためには、人が持っていない珍しい写真や動画(以下、写真)を撮る必要があります。スペイン、フランスやイタリアなど、メジャーな観光地の映像はみんなが持っているから価値はありません。欲望の矛先が向けられたのは、魅力と謎に包まれている日本です。
誰も持っていない日本の映像を自分のSNSに乗せると人が集まります。そして、人が集まるところには“お金”が集まります。つまり、みんなが必死に写真や動画を撮るのは、お金儲けのためです。
お金は欲しい、でもお金は使いたくない「チープな観光」
お金儲けで重要なのは、コストの最小化と利益の最大化です。お金になる写真を撮りたいけど、タクシーなどの高い移動手段を使ったらコストが高くなります。そうだ、路線バスで行こう!
このコスト意識が路線バス問題の本当の原因です。日本は観光地のタクシーが充実していて、英語が通じなくても、指差しや住所で簡単に目的地まで連れていってくれます。それなのに、停留所やルートが複雑で分かりにくい路線バスになぜ観光客が殺到するのか?費用です。利益を最大化するため、お金を極力落としたくないものです。
宿泊や飲食も、観光客が安いホテルとコンビニで済ますことが多いため、地域経済への還元がほとんどありません。自治体から見ても税収が増えず、市営のバスやごみ箱を増やしたくてもお金が足りません。人がいっぱい来ているのに利益が増えないこの“薄利多売”こそが、日本のオーバーツーリズムの根本的な原因であり、真っ先に取り組まなければならない問題です。
誰も持っていない写真を誰も撮っていないアングルで
お金になる写真をタダ同然で撮りたい観光客。その人たちにモラルを期待するのはほぼ不可能です。
誰も持っていない写真やまだ撮られていないアングルで撮影するため、道路のど真ん中を我が物顔で陣取る観光客は少なくない。さらに、許可なく人の家を撮影したり、勝手に人の家に入ったりする事例も多いです。注意すると逆ギレされる始末。自分のことしか考えず、日本はお金になる写真が撮れる“採取所”としか思っていない人たちにモラルを期待するのは間違っています。地域住民との軋轢が生まれるのはそのためです。
日本のオーバーツーリズムの原因は“チープな観光”

オーバーツーリズムと騒ぐほど観光客がいっぱい来ているなら、その収益もいっぱい発生しているに違いない。誰もがそう思います。
しかし、現実は違います。日本の薄利多売が近年の映えビジネスと相まって、ヴェネツィアの“ヒット・アンド・ラン”に近い状況を生み出しました。人がいっぱい来ますが、落ちるお金はごくわずかです。その結果、観光のメリットである外貨獲得はほとんどできず、インフラ、地域住民と資源の消耗だけが進む状況が続いています。
路線バスの本数が増やせず、ゴミ箱の数と回収の頻度も上げられないのは、観光業に十分な売り上げがなく、自治体にもまともな税収がないためです。チープな観光はこのような形で地域住民の生活環境を低下させます。
2つ目の事実 - オーバーツーリズムの原因を作ったのは日本だった
日本のオーバーツーリズム問題を招いたのはサステナビリティの欠片もないビジネスモデルだけではありません。
事前の仕組み作りを怠った
2021年、コロナが蔓延して世界がまだ止まっていたころ。コロナが落ち着いたら日本に観光客が押し寄せることが社会背景やデータから予想されていました。備える時間があったにも関わらず、予約制や現地入り制限などの対策を行わなかったことが今のオーバーツーリズム問題につながっています。
手当たり次第な宣伝を打ってしまった
コロナが終息して、誰もが外貨獲得に腐心していたころ。特定の国、特定のソーシャルクラス、特定の客層などに絞ることなく、「誰でもいいからとにかく来て」という安易な宣伝を無差別乱射してしまった。結果はこれです。民家や定休日の寺に侵入する人までを呼び寄せた。
自らチープな観光を推進した
世界中で問題になっている“チープな観光”。LCCで渡航して、路線バスで現地を安く移動し、“インターネットポイント”を稼ぐために写真だけ撮って帰る観光です。行先にお金を落とさないだけならまだマシだが、不法侵入や無許可撮影、地域住民の足を奪うなどの問題を起こしているのは、ほとんどこの人たちです。
皮肉にも、このチープな観光を推し進めたのは観光業界です。お金をほとんど掛けず“映え写真”だけで宣伝したら、集まるのはお金をほとんど掛けず、同じ写真を撮ろうとする人たちです。
客単価が低く、手段が目的になった
観光客をいっぱい呼べば外貨もいっぱい稼げますが、それは客単価が高ければの話です。ビジネスで一番重要な“客単価”を忘れて、“数”を呼ぶことに力を入れてしまった。“会議のための会議”というヤツです。
日本政府は、「2030年に訪日外国人旅行者数6,000万人、消費額15兆円を達成する」という目標を掲げています。2024年は3,600万人、消費額8兆円を推移しています。あと6年で人と金額を倍にできれば、目標を達成できそうだ。
因みに、アメリカの2023年の観光客数は6,650万人で消費額は2,131億ドル(為替レート150円計算で32兆円ぐらい)です。人の数は日本の30年目標とほぼ同じなのに、金額が2倍です。日本の客単価がいかに低いのか分かります。
まとめ
オーバーツーリズム問題は観光地に人が集まり過ぎることで起きる問題であり、発生する国と環境によってその原因と仕組みが変わります。日本ではゴミが溢れる、路線バスが混雑する、住居侵入などの具体的な問題が発生していますが、その理由は単なる人の多さではない。
日本のオーバーツーリズム問題の原因は、日本が自ら推し進めた“チープな観光”です。その安さを利用して、SNSビジネスで一儲けしようとする低質な観光客をいっぱい呼び寄せたことで路線バスや住居侵入などの問題が発生し、地域住民との摩擦を生み出しています。
モラルの欠片もない観光客を分散したところで、バスが空き、住居侵入がなくなり、観光地にお金がいっぱい落ちるのだろうか?むしろ、問題を他の地域に広げるだけです。
オーバーツーリズム問題を解決するため、観光協会、観光業関係者、自治体や地域住民は何をすべきか?次の記事では、あなたも今から取り組める3つの解決策を紹介します。
オーバーツーリズム問題のよくある質問
オーバーツーリズム問題はなぜ起こるのか?
日本のオーバーツーリズム問題(路線バスの混雑と住居侵入事件)はSNSの写真ビジネスが引き起こしている可能性が高いです。誰も持っていない写真をSNSに出すことで注目が集まり、注目が集まるところにお金も集まります。
具体的には、安いコスト(路線バス移動)と誰も持っていない希少価値の高い写真(人が全くいない休山日のお寺への建造物侵入)で、より多くの利益を得ようとするモラルの欠片もない観光客が原因です。一人や二人だけなら大したことではありませんが、その数があまりにも多いことが問題です。
オーバーツーリズムで人がいっぱい来ているなら、経済的にはいいことではないのか?
本来ならいいことです。人がいっぱい来たらいっぱい売れるはずなので、店の売り上げが増える=税収が増えます。経済が循環して、ゴミ箱とバスの数を増やし、地域住民の暮らしも良くなるはずです。
しかし、日本の観光業は「薄利多売」(安い値段でいっぱい売って、わずかな利益を得る手法)のビジネスモデルを続けているため、人数の割に稼ぎが弱いのが現状です。日本は“チープな観光”ができる国というイメージも定着しつつありますので、ここから這い上がるためには意識改革と莫大な努力が必要です。